Little AngelPretty devil 
      〜ルイヒル年の差パラレル 番外編

    “師走を前に”
 


くどいようだが、
このお話の舞台となる平安朝は暦が違ったので、
今時分というのはまだ晩秋真っ只中。
気候はともかく、行事や祭事は1カ月ちょいズレていて、
新嘗祭やら豊明節会などが催され、
秋の収穫を神様へ報告し、
豊饒を感謝して選ばれた姫たちが舞いを奉納する

…とかいう祀りごとが幾つもあるので
他の節季にも増してお忙しい誰か様なのであり。

 「済んだら済んだで、
  今度は年の瀬のあれやこれやが降ってくるしなっ。」

 「いちいち蹴るんじゃねぇよ。」

履いた沓の具合を確かめるかのように、
沓脱ぎの石の傍に立っていた黒の侍従様の脚を蹴飛ばし、
さてとと門前までへ敷かれた
名ばかりの玉砂利をギシギシと踏みしだき、
出仕に向かう牛車まで足を運ぶ蛭魔だが、

 “昨夜もお忙しかったのになぁ。”

お見送りにと上がり框まで出て来ていた書生の坊や、
少し前に天界から降りて来ていた
仔ギツネさんと並んで見送りつつ、
胸のうちにてそんな呟きを一つ。
朝晩は特にずんと冷える頃合いだからか、
風流より実を取る者のほうが増え、
逢瀬絡みの悶着も多少は減るけれど。
寒さも押してまで通うてくれる殿方もおらず、
寂しい侘しいと痩せ細り、
いつしか恨みの塊となってしまわれる存在も居なくはなくて。
本人の意思まで怨嗟の炎で燃やし尽くしたその結果、
本来の仇敵を見失い、誰でも彼でも襲うのが厄介な。
そんな妖異らを夜陰の陰にて封滅して成敗する、
技量や体力も要れば 覇気も要るよな務めもこなしつつ、
昼の間も忙しいと来ては、

 「常よりお疲れになるのではないでしょか。」

本人に案じて言っても、ケッなぞと鼻で笑うか強がるか。
そうなるのがオチとそこは判っている瀬那としては。
屋敷の食事を賄うおばさまへ訊いてみたところ、

 「そうですよねぇ。
  寒くなって体も縮こまる時期だから、
  油断をすれば血の巡りだって悪くもなろうし。」

精のつくもの一杯食べてもらわないとと、
こちらも実は、季節の折々に先進のそれだろう知識を
そのお屋形様ご本人からも聞いているご婦人、

 「身丈夫になるには根っこの野菜が一番効くから、
  お好きな猪鍋にたんと居れましょうね。」

人の良さげな ふくよかなお顔を柔らかくほころばせ、
にっこり微笑って“任せて”と頼もしく言ってくださるのへ。
ありがとうございますと我がことへのようにお辞儀をし、

 「では、猪の肉を調達して来ましょう。」

仏教の波及もあって
獣を食す習慣は徐々に控えられつつあるその上、
何より相手は雄々しくも荒ぶる野獣。
狩らねば手に入らぬ食材ではあるが、
なんの、
およそ何でも揃う市がほんの間近い京の大路に開かれているし、
何だったら山野を駆け巡る猟師の住まう里も近いので、
直接赴いて 言い値で買うという格好、
品の良いのを売ってくれもしよう。
仕丁の皆様のたまりまで、
供をお願い出来ぬかとの、声を掛けにと向かい掛ければ、
そんな書生くんの袷の袖を引く気配があって。

 「せぇな、お肉は あぎょんがくれるよ?」
 「………はい?」

甘い栗色の細い髪を頭の上へと束ね結い、
真ん丸お顔もふくふくと柔らかそうであどけない、
そりゃあ愛らしい風貌をした、仔ギツネのくうちゃんが
しっかり肉食だからか、特に衒いもないらしく、

 「あしょびにゆくと、焼いたの食べゆの。
  おウチになくなったら いちゅでも言いなって。」

 「……ありゃ。」

裏山の地主は蛭魔だが、
獣も含め、
そこに住まう者らを仕切っているのはあの蛇神様だから。
ある意味で彼もまた主ではあって。
しかも肉食の君でもあって、
これまでにもウナギじゃ鴨じゃと
手土産に持って来てくれた経緯もあったが、

 「う〜ん、でもねぇ。」

あの彼へ借りを作るのはヤダとするお人が、約一名いるだけに、

 「お師匠様も、
  奢ってもらうのを良しとする間合いが微妙なお人だしねぇ。」

 「うや? びみょー?」

 うん。
 この前 御馳走してやっただろーがって威張られるのへ
 ムッとしちゃう気分のときもあるから、
 そことの噛み合わせがネ。

 かみやーせ?

まだまだ子供な仔ギツネさんには
ピンと来なくとも仕方がないかと、
こちらもまだまだ年若な書生くんが ふにゃんと笑い、

 「でもでも今日は、
  甘いキビの飴も売ってる、大路の市へ行こうね。」

 「アメっ!」

くう、それ好きっ!と
大はしゃぎする坊やに、今度は手を引かれるようにして、
古いが手入れのいいお廊下を、
とたとた小走りとなって進むこととなり。
風は冷たいがそれでもほっこり上ったお陽様、
そんな童らをいかにも微笑ましげに見てござった。





    〜Fine〜  14.11.29.


  *いやはや、あっと言う間に掛け去ろうとしている11月で、
   学生さんは期末テストですね。
   それが終わったら 冬のイベントあれこれへ飛び込む訳ですね。
   バイトして資金溜めて、クリスマスには女子会して。(おいおい)
   年賀状もメールで済ますなら
   余裕の年末なのネ、うらやましい…。
   自分のお部屋の大掃除くらいはするんだよ?
   薄い本ぎっちりの本棚とか、ぷにっこ萌えっこDVDとか、
   分単位でセッティングされた録画システムあれこれ、
   勝手にいじられたくないなら特に。(自虐?・笑)


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